ネットの書き込みでこんな感じのを見つけました。
「コロナ禍でピアノ教室もオンラインになっちゃったし、発表会も子供は楽しみにしてるけどもう退会するわ」
「オンラインレッスンになっても、月謝は対面レッスンと同じだとちょっと納得いかないよね」
みたいな。
世の中のピアノの先生が休業を強いられ、どれだけ急場でオンラインレッスンの方法を構築したか…と思うと、胸が痛くてこれを見た時は辛かったです。
そして、同時に

先生がもっと生徒さんのご家族に情報を共有して理解を得てからやれば違ったのに
とも思いました。
まさに、先生と親御さんとの連携がきちんとできていないパターンだと思います。説明不足。
PLMでは、「コミュニケーションが大事だ」と何度もお伝えしています。でも、正直それは先生方みなさんが大事だとよくよくわかっていることだと思うんですね。
例えば、コロナ禍のオンラインレッスンへの切り替え、みなさんはスムーズに移行できましたか?
上記のような不安を抱かれるかも、という危惧はなかったですか?
私は、すぐにはオンラインレッスンには移行しませんでした。最終的に全員の生徒さんが納得してオンラインレッスンへご理解を示してもらう方法を考えたんですね。
ここからは、「保護者の方との情報の共有の大事さ」の例として、オンラインレッスンへの理解をいただくために実施した方法を書こうと思います。
「オンラインレッスン」は単なる例にすぎません。
他の事案についても私のやり方は、他の先生とコミュニケーションの重要さの位置付けが違うんだろうな、と思われることなので、たいへん僭越ながら応用していただければと!
2020年、コロナがまだ中国で騒がれ始めた頃の2月の半ば時点で「これはやばいかも」と感じていました。
今は観光客は外国人ばかりだし、日本にコロナが運ばれてくるのも時間の問題だなとすでに不安を感じていました。
まず、生徒さんに安全に通ってもらうための環境づくりの周知と協力のお願いをするために、2月の中旬にプリントを配布しました。
コロナがどういうものかがまだわかっておらず、レッスン室に来たら消毒、鍵盤も消毒、必要と思えばマスクでレッスンの可能性もあるので、遠慮なく心配な人はマスクをしてくださいとお知らせしました。
その時点ではまだ親御さんの反応は、そこまで不安な感じというところまではいっていなかったような印象でした。
こんなに早々から警戒し(笑)、注意喚起をしているその反面、中国ではステイホームをすでにしていて、日本でもあれをしなければいけなくなったら、レッスンはできなくなるな、それは避けたい気持ちも強かったんです。
オンラインレッスンも面倒だからやりたくないなぁとも思っていましたし(笑)この対策でレッスンが継続できれば、というのが本音でした。
ところが、一斉休校が決まった時親御さんの風向きが変わりました。
私はレッスンにいらしたお母さん達に聞いてみたんです。レッスンはこのままあった方がいいですか?と。
そう、学校が休みなのに、ピアノ教室は開けていていいのか、それが一番心配でした。子供を持つ友人にも聞きました。
そうしましたら、「学校も行けないし、どこも閉まっちゃうし、せめてピアノ教室はいつもどおりだとありがたいです」
という声がほとんどでした。
とりあえず、レッスンは継続して、マスク着用、心配ならお休みしてもいいということを、一斉メールしました。
休業要請が出るまでの1ヶ月半くらいでしょうか、毎日恐怖と不安とで押しつぶされそうになっていました。
感染者数がどんどん増えて、
まだレッスンやっていていいのかな?
同じ区で陽性者が出たのに、レッスンやっていていいのかな?
毎日こればっかりが頭を巡りました。
「大丈夫」なんて誰も判断できませんでしたし、万が一私がコロナに、万が一生徒さんがコロナになってしまったら…と、当時若干メンタルやられていたかもしれませんね(笑)
で、近くで保育園のクラスターが出たというニュースを見た時点で、「もう限界だ」と思い、また生徒さんに一斉メールをしました。この間3回くらい一斉メールしたと思います。
それまでいつでも状況に応じて、対面レッスンをお休みするということはお伝えしていたので、休業しますというメールが3通目でした。
この文面も、何時間も考えました。
今みたいに飛沫を防ぐためにマスクをする、そうしないと感染するという今では当たり前となった認識も、当時はまだいろいろ配慮した書き方しなければという意識があって、何度も推敲しました。
病気予防とはいえ、平たく言うとレッスンにこないでね、というニュアンスだよなぁとも思ったので、不快に思われないように、みんなで感染者が減るように協力しましょう、という呼びかけ的な感じでメールを書きました。
対面レッスンを続けたいという生徒さんに向けたメッセージ、出張レッスンの生徒さんへ向けたメッセージ、大人の方へ(高齢の生徒さん)のメッセージ、教室の主宰者として、全方位の生徒さんが安心するような対応というのが必要だと考えて、早くお知らせすることに努めました。
考えすぎてこのころ毎日偏頭痛がひどかったです(汗)
お母さん達が、いち早く返信してくださって、
「先生、こういう緊急な時期にいろいろ判断が難しいところメールくださってありがとうございます。今後のレッスンの件よくわかりました。子供達のこと考えてくださってありがとうございます」
「先生のことだから、きっとだいぶ悩んで、毎日思案なさっていたんだろうなと思います。子供達も練習を頑張っていこう話し合っていました。ちなみに習わせているお習字教室は〜という対応になりました。何か情報があったらメールしますね」
「ほんとうにお疲れ様です。承知しました!自宅で練習をたくさんさせておきますから!」
など、励ましのメッセージを添えて返信してくださいました。そして一斉メールをした数日後、緊急事態宣言が発出され、店舗なども休業、私たち事業者も休業要請が出されました。
対面レッスンが休みになり、次に考えるのはこの間どうするか?ということでした。
一斉メールの中で、もし可能であれば宿題の曲の演奏動画を撮影して送ってくださいと書いておきました。
翌日、さっそくお子さんの演奏動画を送ってくれたお母さんがいらっしゃいました。その動画を見て、胸が熱くなりまして。
先週までここでレッスンしていたのに、今はこんなに距離を取らなければならないなんて。世の中ががらっと変わってしまった実感と、そして動画の中で一生懸命弾いている生徒さんの姿に心を打たれました。
その子たちの演奏動画を見ましたら、お手本演奏を撮って送ってあげようと録画していたら、
「毎週会っている生徒さんなのに、お手本動画だけ送るとは水くさい。ちゃんと動画に自分も映り込んで、アドバイス動画をちょっと撮ってみよう」
と思ったんですよね。
それを送りましたら、おうちで生徒さん達はすごく喜んでくれたそうです^^お母さんも感激なさって、また練習しっかりさせて送りますね」とLINEをくれました。
このアンサー動画を作り込めば、動画レッスンというスタイルになるかもと思いつきました。
私が当初、zoomなどでのオンラインレッスンに消極的だったのは、当時の世のお母さんお父さん方には、習い事よりも考えなくてはならないことがたくさんあるだろうと思ったんです。

保育園や幼稚園はどうなるか、入試はどうなるか、親御さん達のお仕事はどうなるか、そういう状況で、いきなりオンラインレッスンをしますと言ったら負担をかけてしまうかもしれない。
と、今のこの時点では、ちょっとハードルが高いだろうと思って、演奏動画を撮って送るだけならすぐにでもやってもらえるだろうと考えたんですよね。
ご案内したのは、動画レッスン、リアルタイムでのオンラインレッスンももちろんご案内しました。
これまでやったことがない未知数なものにお金をいただくにはプレッシャーが大きかったので、4月中はお試しレッスンを実施しますとご案内。
動画の撮り方がわからない人でもわかるよういに、「オンラインレッスンマニュアル」をトータル3〜4ページの冊子にしました。
そして、レッスン再開の時期や、月謝の返還方法(個々に)を作り、さらに生徒さん一人一人にお手紙を添えて課題を作りました。
小さい生徒さんには、お母さんが練習をサポートできるように、指導方法をプリントにし、生徒さん用の教材も作ったりしました。
そんなことをしましたから、3日くらいかかったと思います。ほとんど寝ずの仕事でした。それを大きい封筒に入れて全員に郵送。これで最初の一週間は終わりました。
翌週からさっそく動画が送られてきました。親御さんがオンラインレッスンマニュアルをしっかり読んでくださって、ご協力の賜物だと感じました。
それから1ヶ月ほど私は動画作成に忙殺されました。レッスン室で人数分の動画を撮影し、うちで動画編集して、翌日までに生徒さんに返す、という荒技をやっていたんですね(笑)
この頃は、寝て、撮って、編集して1日が終わる、の繰り返しでした。
家事をやった覚えはほとんどありません(笑)
お母さん達から、何事かというくらいの大きな反応をいただきまして、こんな素晴らしいクオリティで動画レッスンをしていだだけるとは思っていなかったと、すごく喜んでくださったんですね。
その頃は、それぞれの携帯の容量が心配だったので、ついには生徒さんそれぞれの限定公開方式でYouTubeでシェアしました。これもとても喜んでくださいました。
その頃、私はボロボロでしたが(笑)、正直なところ、オンラインレッスンになっても同じお月謝をいただくために、生徒さんにも納得していただけるために、結果を出さなくてはいけないと思っていたんです。
すでに生徒さんたちも自分の動画を撮るという行為に恥ずかしさも消えて、メッセージ動画を送ってくれる生徒さんもいました。この時点でオンラインレッスンに対するハードルは完全に下がったと実感しました。
緊急事態宣言が解除されたら、いつでもオンラインレッスンに切り替えられるように動線を作りたいというのが最終目標でした。
5月半ば、対面レッスンも再開し、ここからようやく状況に応じてオンラインレッスンをするというお知らせと、その方法をお伝えしました。順次、接続テストをしましょう、という計画を発表しました。
なんかこの辺から私もちょっと安心して、ちんたらちんたら全員の接続テストが終わったのが8月くらいですかね(笑)
おそらく、ここまでオンラインレッスン実施まで時間をかけた先生もいないのではなかろうか、と思うんですよ。自分の慎重さに呆れてしまうんですが(笑)
結果的に、生徒さん全員がオンラインレッスンを快諾していただき、ガラケーのお母さんまでなんとか動画を撮れないかと頑張ってくださいました。
自慢ではないんです。冒頭のようなことを生徒さんに思わせず、退会者も出さないために、ここまでのことをした差が出ているのではないかということです。
ブログにも書きましたが、動画レッスンを体験して、アンケートを募ったわけではないのですがLINEで送られてきたお母さんが宝のメッセージをここにもう一度掲載しますね。
- 「30分で終わるところを、たくさん時間をかけていただいて本当に感謝しています。さっそく見せて来週までしっかり練習させます」
-
「この期間に、先生お一人でここまで新しいことを取り組まれて形にされたことに、ただただ尊敬です。子供も撮影されることが楽しいみたいです」
- 「ふだん先生とこんなふうにレッスンしているんだなーというのが知ることができてよかったです」
-
「YouTubeから先生が子供の名前を語りかけてくれるのが嬉しいようで、テレビ画面で家族で見ています」
- 「対面レッスンの方がいいと言っていましたが、やってみると動画がとってもわかりやすくて(解除後も)まだしばらく動画レッスンでもいいかもと言っています(笑)」
-
「対面レッスンと変わらない内容でご指導してくださって感謝しています」
-
「先生の動画は絶品です。先生はファイターです」
太文字の部分は、「お母さん方に、対面レッスン以外でレッスンしようとするとこのくらいの労力がかかる」ということを理解していただいたんだな、とわかるコメントです。
「対面レッスンと変わらない内容でご指導してくださって感謝しています」
この言葉をいただいた時に、いつも通りのお月謝をいただけると心底安堵した覚えがあります。
他の先生もきっと同じようにやってらっしゃったと思うんですよ。ただ、私はそれをまず親御さんに理解してもらないと、満足してもらえるレッスンはできないと思ったから、発信をし続けただけなんです。
ですから、もちろんプロモーションもしたんですよ。
本来は対面レッスンが望ましいのは決まっています。ですが、このご時世ですから、オンラインレッスンの必要性とメリットをお伝えする必要があると思いました。
オンラインレッスンならではの着眼点があって、こういうメリットがあります、というふうに箇条書きにして生徒さんにとっての有益な部分をお伝えし、そのためにこちらはこういう機材も準備して対応できるようにした、と。
生徒募集の訴求の仕方と同じです。そしてそれをちゃんと実践して、1ヶ月分の実績を積んだことで、理解をいただきました。
私としても、親御さんの理解なしにはオンラインレッスンはやりたくなかったんです。
こう言う状況だから「先生の言う通りにしてもらうのが当然」、って親御さんたちに甘えたくなかったんですよね。
そもそも誰だって対面レッスンで受けたいんですから。それに代替する方法を構築するのが私たちなわけで。
このおかげで、今もときどきオンラインレッスンになった時も、お母さんから
「いつも丁寧にたくさん教えてくださってありがとうございます」
と対面レッスンとは別の角度での指導をよく理解していただいて、その価値をわかってくださっているということがすごくありがたいです。
今回はたまたまオンラインレッスンのエピソードでしたが、オンラインレッスン自体は関係なく、なんでもいいんです。
発表会でもいいし、テキストを替えるねっていう話でもいいし、いつもと状況を変えなければならないことについて、どう説明して理解をもらうか?という部分において、人より手数をかけているからこそのお母さん達の理解を得られるんだと感じています。
これが私の経験から生まれた生きたコミュニケーション術です。積み重ねの正攻法。
遠回りだし、そこまでしなくてもいいのに、というのもわかっています。もっときっと簡単で上手いやり方もあると思います。
でもそこまでやったことの反響は↑のお母さん達からのメッセージの通り、私が予想だにしていなかったくらい大きくて、お母さん達の心にビシッと伝わっていたということです。
自分の考えを浸透させるには、自分が思っている3倍くらいの情報量や期間をかけて準備する、ということを意識していることが他の方のとの違いかもしれません。


